BC085『文学のエコロジー』から考える文学の効用
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今回取り上げるのは、山本貴光さんの『文学のエコロジー』です。
本書を通して、「文学を読むときに何が起きているのか?」を考えてみます。
書誌情報
* 著者:山本貴光
* 哲学の劇場でもおなじみ
* 『記憶のデザイン』『文学問題F+f』などがある
* 出版社:講談社
* 出版日:2023/11/23
* 目次:
* プロローグ
* 第I部 方法——文学をエコロジーとして読む 19
* 第1章 文芸作品をプログラマーのように読む 20
* 第II部 空間 49
* 第2章 言葉は虚実を重ね合わせる 50
* 第3章 潜在性をデザインする 74
* 第4章 社会全体に網を掛ける方法 97
* 第III部 時間 117
* 第5章 文芸と意識に流れる時間 118
* 第6章 二時間を八分で読むとき、何が起きているのか 139
* 第7章 いまが紀元八〇万二七〇一年と知る方法 161
* 第IV部 心 183
* 第8章 「心」という見えないものの描き方 184
* 第9章 心の連鎖反応 207
* 第10章 関係という捉えがたいもの 232
* 第11章 思い浮かぶこと/思い浮かべることの間で 254
* 第12章 「気」は千変万化する 276
* 第13章 「気」は万物をめぐる 300
* 第14章 文学全体を覆う「心」 321
* 第15章 小説の登場人物に聞いてみた 342
* 第V部 文学のエコロジー 367
* 第16章 文学作品はなにをしているのか 368
* エピローグ 395
* あとがき 418
本書に加えて、『ChatGPTの頭の中 (ハヤカワ新書 009)』と『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)』を補助線として挙げておきます。
倉下のメモは以下のページをご覧ください。
以降は常体でお送りします。
エコロジーとシミュレーション
エコロジーとは「生態学」のこと。静止した対象ではなく、対象と環境の相互作用に関心を向ける態度が生態学。つまり本書は、「生態学における文学」という意味ではなく、文学を生態学的な観点から眺めてみよう、という態度で書かれている。
面白いのは、そこに「シミュレーション」の視点が加わる点。小説で描かれる世界を、もしコンピュータ・シミュレーションで立ち上げるとしたらどのようになるか。そのような対比を対比を経ることで、そもそも私たちが文学を読んでいるときに何が起きているのかが再発見されていく。
その意味で、本書は具体的なレベルでは「文学には何がどのように書かれているのか」が検討されるのだが、そうした検討の先に「文学を読むときに何が起きているのか?」という大きな問いに取り組んでいる。個々の文学作品に対する批評というよりも、「そもそも文学とは何か」(何でありうるか)を探る文学論であると本書は位置づけられるだろう。
生きることとシミュレーション
ここからは倉下の意見がかなり入ってくるが、人は「世界」をシミュレーションして生きている。世界のそのものを捉えているのではない(物自体にはアクセスできない)。私たちは世界についての「モデル」を持ち、そのモデルをベースに世界はこうであろうと演算している(ただし意識的な計算ではない)。
小説作品は「世界」を描いている。もっと言えば、提示される作品を読者が読むときに、そこに読者なりの「世界」が立ち上がっていく。「世界」がシミュレートされるというわけだ。そのシミュレートは、もしかしたら読者がもともと持っている「世界」シミュレート.appとは違う動作かもしれない。その動作が、読者のシミュレートにフィードバックし、それまでとは違った仕方でシミュレートすることを可能にするのではないか。
本があり、読者がいて、その読者が読むことを通して変容していくこと。
それこそが「文学」という営みの生態系であろう。文学を静止的・局所的に捉えるのではなく、読み手の存在と文学によって媒介される変化を合わせて捉えること。それが文学のエコロジーであるように思う。
だからこそ文学は「生き方」を変える。というよりも、「生きる」という営みの励起の仕方を変えていくのだ。「生きるとはどういうことか」ということを根本的に揺り動かせるのは、文学が私たちのシミュレートに影響を与えているからだ、というのは何の確証もないけれども、今後時間をかけて考えていきたい命題である。
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