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BC079「2023年の振り返り(後半)」

1:09:55
 
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前回に引き続いて、今年一年の配信の振り返りです。

◇2023年ブックカタリスト配信リスト - BCBookReadingCircle

上記ページの「----half---」より下の回を振り返ります。

当記事では、倉下視点でのトータルの振り返りを。

リアルなものの復興・二重構造

まず『言語はこうして生まれる』および『会話の科学』で、私たちのリアルで日常的な会話の重要性が回復されました。理論的に整ったものが「本質」ではなく、雑多で即興的なやりとりこそが言語の中心的な意義であると確認されたわけです。

その上で、『ふつうの相談』の構図が立ち上がります。論理的に整ったものや体系的なものは、ある特殊な状態を先鋭化させたものであり、そうした研究にはたしかに意義がある。しかし、私たちのリアルはもっと柔軟で雑多なものであり、その両方が行き来すると豊かな状態がやってくるであろう、という見立て。つまり、どちらか一つを選択するのではなく、その両方を織り込んだ大きな地図を著者は描いて見せました。

同じ視点を採用すると、『習慣と脳の科学』『Remember 記憶の科学』『まちがえる脳』 『忘却の整理学』で確認したように、二重の要素が構造を支えている形が浮かび上がります。

身体的・習慣的なもので固定的なものに対応する能力と、言語的・観念的なもので変化に対応する能力。覚えることと、忘れること。どちらも相反する能力が、一つの系(システム)の中に存在し、それぞれが協調的に働くことで大きな成果を達成しているわけです

どちらか一つを選ぶという選択ではなく、その両方を織り込んだ地図を描く

その意味では、「悪意」もゼロイチで考えるのではなく適切に運用することが重要でしょうし、「頭の中のひとりごと」も完全に抑制するというよりは、暴走を抑制し、うまく使えるように導くことが大切になるでしょう。「積読か再読か」という選択も実際は無意味で、その両方をどう営んでいくのか、という視点が必要になります

ようするに、単一の原理こそが「唯一の答え」であり、それ以外はすべて間違いという狭い観点から抜け出て、どのようにして複数の原理を運用していくのかという考えの方向性が見えてきたのが今年一年の読書でした。

読書の深まりと広がり

同じように、本の読み方・選び方についても二重の要素が考えられます。

一つは、専門分野・興味を持っている分野について重点的に読んでいくスタイル。似たような新書を複数冊読むことや同じ本を再読することも、ここに加えられるでしょう。

そうした読書では、自分の脳内にある知識の網(あるいはconceptのnetwork)をより密にしていく効果が期待できます。理解を深める読書、と端的にまとめられます。

もう一つのスタイルが、その時点の自分の専門分野や興味の外側にある対象について読んでいくスタイルです。実際は、完全な外部についてはそういう本があるということすら認識できないでしょうから、「外周ぎりぎりにある本」がよい塩梅でしょう。

そうした本は、「これを読めば、〜〜に役立つ」と確信的なことは何も言えません。それが言えないものを「外部」と呼ぶからです。そうした本を読むときに必要になるのは、言うまでもなく知的好奇心です(あるいは、虚栄心ということもあります)。そうした心の動きがなければ、確信がない本を読むという行為はまず起こらないでしょう。

で、知的好奇心に駆動されて「外側」の本を読むと、思いも寄らなかった対象と知識の網がつながることが起こります。単純に言えば、知識の網が大きくなるのです。これを、理解を広げる読書とまとめておきましょう。

必要なのは、この二つのタイプの読書のどちらか一つを選ぶのではなく、必要に応じてどちらも使っていくことです。深めることと、広げることの両方を行うのです。そうすれば、うまい具合に知識の網を整備していけることでしょう。

もちろん、上記とはぜんぜん違った形の「読書」がありうることは間違いありません(でなければ、結局単一の原理に還元していることになります)。ただし、ある種の知的なあこがれに向かっていく読書の場合は、そうした読み方・選び方は意識しておいた方がよさそうです。


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当記事では、倉下視点でのトータルの振り返りを。

リアルなものの復興・二重構造

まず『言語はこうして生まれる』および『会話の科学』で、私たちのリアルで日常的な会話の重要性が回復されました。理論的に整ったものが「本質」ではなく、雑多で即興的なやりとりこそが言語の中心的な意義であると確認されたわけです。

その上で、『ふつうの相談』の構図が立ち上がります。論理的に整ったものや体系的なものは、ある特殊な状態を先鋭化させたものであり、そうした研究にはたしかに意義がある。しかし、私たちのリアルはもっと柔軟で雑多なものであり、その両方が行き来すると豊かな状態がやってくるであろう、という見立て。つまり、どちらか一つを選択するのではなく、その両方を織り込んだ大きな地図を著者は描いて見せました。

同じ視点を採用すると、『習慣と脳の科学』『Remember 記憶の科学』『まちがえる脳』 『忘却の整理学』で確認したように、二重の要素が構造を支えている形が浮かび上がります。

身体的・習慣的なもので固定的なものに対応する能力と、言語的・観念的なもので変化に対応する能力。覚えることと、忘れること。どちらも相反する能力が、一つの系(システム)の中に存在し、それぞれが協調的に働くことで大きな成果を達成しているわけです

どちらか一つを選ぶという選択ではなく、その両方を織り込んだ地図を描く

その意味では、「悪意」もゼロイチで考えるのではなく適切に運用することが重要でしょうし、「頭の中のひとりごと」も完全に抑制するというよりは、暴走を抑制し、うまく使えるように導くことが大切になるでしょう。「積読か再読か」という選択も実際は無意味で、その両方をどう営んでいくのか、という視点が必要になります

ようするに、単一の原理こそが「唯一の答え」であり、それ以外はすべて間違いという狭い観点から抜け出て、どのようにして複数の原理を運用していくのかという考えの方向性が見えてきたのが今年一年の読書でした。

読書の深まりと広がり

同じように、本の読み方・選び方についても二重の要素が考えられます。

一つは、専門分野・興味を持っている分野について重点的に読んでいくスタイル。似たような新書を複数冊読むことや同じ本を再読することも、ここに加えられるでしょう。

そうした読書では、自分の脳内にある知識の網(あるいはconceptのnetwork)をより密にしていく効果が期待できます。理解を深める読書、と端的にまとめられます。

もう一つのスタイルが、その時点の自分の専門分野や興味の外側にある対象について読んでいくスタイルです。実際は、完全な外部についてはそういう本があるということすら認識できないでしょうから、「外周ぎりぎりにある本」がよい塩梅でしょう。

そうした本は、「これを読めば、〜〜に役立つ」と確信的なことは何も言えません。それが言えないものを「外部」と呼ぶからです。そうした本を読むときに必要になるのは、言うまでもなく知的好奇心です(あるいは、虚栄心ということもあります)。そうした心の動きがなければ、確信がない本を読むという行為はまず起こらないでしょう。

で、知的好奇心に駆動されて「外側」の本を読むと、思いも寄らなかった対象と知識の網がつながることが起こります。単純に言えば、知識の網が大きくなるのです。これを、理解を広げる読書とまとめておきましょう。

必要なのは、この二つのタイプの読書のどちらか一つを選ぶのではなく、必要に応じてどちらも使っていくことです。深めることと、広げることの両方を行うのです。そうすれば、うまい具合に知識の網を整備していけることでしょう。

もちろん、上記とはぜんぜん違った形の「読書」がありうることは間違いありません(でなければ、結局単一の原理に還元していることになります)。ただし、ある種の知的なあこがれに向かっていく読書の場合は、そうした読み方・選び方は意識しておいた方がよさそうです。


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